授業のこぼれ話 # 9 初学者に間接発話行為を
2023.04.19
例えば、あなたが日本語学校の教師で、今まさに授業の真っ最中だとしよう。
教室の奥にいる学生Aが寛いだ様子で、飲み物片手に隣に座る同国出身の学生Bと母国語で談笑している。その周囲の他の学生たちは顔をしかめ、はっきり言って二人は授業の邪魔になっていると言わざるを得ない。
叱って注意したいのだが、自分は二人の母国語に堪能ではなく、また二人もあまり日本語が理解できない...。
さあ、あなたならこの後どうされるであろうか?
方法は色々あると思う。
例えば、口の前に立てた人差し指をあてがい「シーッ!」と発するとか。
あるいはクラスの中で比較的日本語が上手な学生を通訳に立てて注意をするとか。
はたまた、もう言葉は理解されなくてもいいから「やかましい!!! 黙れ!!!」と怒鳴るとか...。
(↑ 後先考えると得策ではない?)
ここで言語学的なアプローチ&少しばかりの教師経験からもう一つの提案をしたい。
それは「間接発話行為」を用いて注意をするという方法である。
具体的な例の前に「間接発話行為」とは何かから説明しよう。
手元にある1993年初版発行の『日本語教師のための言語学入門』にはこうある。
「ある文型から予想されるものとは異なる発話行為が間接発話行為である」。
わかりにくいと思うので、その後に提示されている例を見てみよう。
「タバコ屋の店頭で」「マイルド・セブンありますか。」
時代感が漂うこの場面設定&発話の後の解説はこうだ。
「マイルド・セブンというタバコの有無を確かめているのではなく,『マイルド・セブンを下さい』とその銘柄を求めているのである。」
...これです。
この「間接発話行為」を使えば、先の学生AとBに簡単な日本語で理性的に注意をすることができるのです。
例えばこんなのはどうだろうか?
「ここは、どこですか?」(落ち着いた声で、にこやかな表情を添えて)
言わずもがな、ここでこの発話は現在地の質問ではなく「静かにしろ」という依頼/命令として機能する。
実際に私も何度か(何度も?)使った手であるが、失敗に終わった記憶はない。
(※ 嫌味ったらしさが残るとかそういうことは今は考慮していない)
今回は学生を注意する場面を想定して書き連ねて来たが、別のシチュエーションでももちろん使用可能だ。
「初学者に間接発話行為を」この提案は決して新しくはないし、意識せずに自然に使っている方も多いだろう。
しかし、意識的に捉えてみることで変わる何かがあるような気もしているのだが、いかがだろうか。
(ちなみに比喩も間接発話行為と同様に有効であると感じているが、それはまた別の機会に)
(瀬戸)