仙台国際日本語学校

「仙台国際日本語学校」は宮城県仙台市にある日本語学校です。

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仙台国際日記(ブログ)

授業のこぼれ話 #6 がち

2022.08.25

「子どもの時、体が弱くて学校を休みがちだった。」
「車ばかり乗っているので運動不足になりがちです。」
「弟は病気がちで、よく薬を飲んでいる。」


冒頭から少し悲しい気分になるが、いずれも私自身の話でもなければ、私の周囲のだれかの話でもない。
『45日で基礎からわかる 日本語能力試験対策 N2文法総まとめ』にある、文型「~がち」の例文である。
今日は、この「~がち」についての話。

日本語能力試験では、およそN2の範囲とされるこの文型。
上記のテキストでは、以下の解説が4か国語訳とともに添えられている。

「頻繁にそうなってしまうことを表す。意図したことではなく、自然にそうなってしまうこと。よくないことを言うことが多い」

十数年前に教え始めたころから付き合いのある「がち」君の真の姿を知ったのは、いつのことだっただろうか。
それは授業準備のためにネット検索をしているときでもなく、ましてやテキストの中でもなかった。
通勤中の電車の中、故井上ひさし氏の作品を読んでいたときのことであったと記憶している。

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普段「がち」とカジュアルな装いの彼が、突然ビシッと正装し「勝ち」として目の前に現れたのである。
その際の衝撃を私は、今も忘れることができない...。
なぜか? それはその姿が、今後のこの文型の指導に、それはそれは役立つことが容易に予想できたからだ。

説明しよう。
先に書いた解説では「頻繁にそうなってしまうことを表す」とあったことを思い出してほしい。
必ずしもイコールではないが「そうである状態」のほうが「そうではない状態」よりも多いと換言できよう。
つまり、「そうである状態」が「そうではない状態」に「勝」っているのである!
円グラフを想像してもらえば、AとBのうちより多くの面積を占めているほうが「がち」いや「勝ち」なのだ!

それ以来私は、テキストでは「がち」と現代風の装いの彼を漢字に着替えさせ、学生の前に立たせている。
少し恥ずかしそうな面持ちの彼を勇気づけるべく、円グラフさんの応援も借りつつ...。
その効果のほどは...あえて言うまでもないだろう。

この例から、昨今の「ひらがなに開く」傾向には負の面もあることがおわかりいただけるのではないか。
「やさしい日本語」も普及し始め、多くの人がその恩恵を得ていることは素直に喜ぶべきことであると思う。
しかし、こと表記においては、漢字→ひらがなの変換がかえって理解を妨げている場合も否定できない。
漢字文化圏の学習者や、それなりに漢字を習得した学習者には、ときに漢字の力は大変有効なのである。


(瀬戸)

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